プロ野球選手の年俸額を聞くと億を超える選手が当たり前のようになってきました。2020年の年俸額では1億円超えの選手は実に100人以上にものぼります。一昔前ならば1億円プレーヤーは球界でもほんの一部でいわば「球界の顔」という印象でしたが、今では1億円プレーヤーの名前を聞いても顔がはっきり思い出せない選手もいます。
ここまで1億円プレーヤーが多くなると、プロ野球の球団って儲かってるの?そもそも球団経営の仕組みや経営状況ってどうなってるの?という素朴な疑問を抱きます。今回はプロ野球の球団経営と仕組み、さらにかつてとは異なる球団の経営状況についてまとめてみました!
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プロ野球球団経営の仕組みとは?
日本のプロ野球は12球団ありますが、れっきとした会社であることを知らない方も意外といるのではないでしょうか?しかも12球団とも「株式会社」と株式を発行しています。
ただしこの株式は世間一般で話題になる株価の変動はありません。上場されている株式と異なり、全ての株式を親会社、提携会社が保有していますので誰もが自由に株式を持つことはできず、売買もされないため株価の変動もありません。
しかし株式会社である以上、一企業であり営利を目的として存在しています。もっとも親会社の宣伝塔としての側面があるので必ずしも利益を出しているわけではなく、赤字の球団もあります。
赤字が出ても親会社が補填するので球団が倒産することはありませんが、かつては近鉄やダイエーなどの親会社が赤字球団を支えるのが苦しくなったために「身売り」をすることもありました。
球団が赤字化するのは単純に収入が少なく支出を賄いきれない時で、それこそ一般企業と同じ仕組みです。それでは球団経営にはどんな収入があって、どんな支出があるのかについて見ていきましょう。
球団の主な収入とは?
プロ野球の収入の柱は主に
- チケット販売収入
- 放映権収入
- グッズ販売収入
- スポンサー収入
が大きな収入源となります。これらの収入とは一体どんなものなのでしょうか?
チケット販売収入
よく「プロ野球は興行」という言葉を耳にすることがありますが、プロ野球は多くのお客さんにチケットを購入してもらって球場に足を運んでもらうことが何よりも重要です。
剛速球やホームラン、ファインプレーといった素人ではできないようなプレーを披露してプロ同士が対戦する姿、応援するチームが勝つシーンを楽しみに多くのファンが観戦に訪れます。
球団の最も大きな収入はこのチケットの販売収入です。このチケット収入はホームゲームのチケット売り上げが球団の収入になります。ビジターのチームの収入にはなりません。
このチケットの種類にはバックネット裏から外野席まで様々な観戦エリアごとに設定され、このエリアのチケット価格は各球団がそれぞれ決めています。さらに1年間ずっと同じ座席でホームゲームの全試合が観戦できるシーズン券と試合ごとに販売される当日券や前売券に分かれます。
シーズン券は球団にとって1年間分の売り上げが確定するので一番の安定収入となります。しかし1年分の観戦チケットなので当然価格は高くなり、なかなか個人では手が出ません。一般的には企業などが取引先や従業員のために購入するケースが多いようです。
もちろん熱心なファンが外野応援席に毎試合通い詰めるために購入するケースもあります。それでも何十万円もするようなチケットになりますので、相当な球団愛とお金がないと購入できないでしょう。
一方で当日券、前売券は好きな時に好きな観戦エリアのチケットを購入することができるので、比較的お手軽に購入できます。ただし巨人や阪神のような人気球団となると当日券はおろか前売券も簡単に手に入らないようなケースもあります。
他球団の主催試合でも休日の巨人戦、阪神戦は人気チケットとなり、入手するのが困難なこともしばしばあります。
いずれにしても球団からすれば、1枚でも多くのチケットを販売することが球団収入に直結します。球団からすれば空席はできる限り減らしたいので、特に平日のナイターはあの手この手を使ってチケットを売り切るために工夫しています。
例えば無料ユニフォームや応援グッズを配ったり、始球式に有名人を招く、選手と触れ合うイベントを実施するなどファンサービスを充実させるといった、球場に来てもらうための施策を企画しています。
このようなチケット販売収入は球団にとって最も大きな柱で、いかに多くのお客さんに球場へ足を運んでもらうのかが球団経営のカギを握ります。
放映権収入
チケット販売収入に次いで大きな収入の柱が放映権収入です。球団は球場で観客に野球を見てもらうだけでなく、テレビ、インターネット、ラジオの中継放送を通じて球場に来られない視聴者に試合映像を提供しています。
この試合中継は放送するテレビ・ラジオ局、インターネット配信会社が中継する権利を購入します。放送する側は球団から購入したプロ野球のゲームというコンテンツを放映することで、テレビ番組としてスポンサーから広告収入を得たり、視聴者から視聴料を得ることができます。
放映権収入はまさしくプロ野球が番組コンテンツとして価値があるからこそ球団が得られる収入です。ただしコンテンツとしていかに高い視聴率を確保できるかが放映権収入に関わってきますので、やはり巨人のような全国的に人気のある球団は放映権収入が高くなります。
かつて地上波のテレビ中継があったころは、テレビやラジオのスイッチを入れれば野球中継をお手軽に無料で視聴することができましたが、現在はCS、BSやケーブルテレビ、ネット配信といった有料番組が増えています。
しかし一方で関東以外に本拠地をもつプロ野球チームは地元の放送局が中継しているケースも多く、放送枠の制約もあるため完全中継とは行かないまでもいまだに地上波のテレビ放送で野球中継が視聴できます。
最近ではDAZN(ダゾーン)が広島カープを除く11球団の放映権を購入して公式戦のほとんど全試合を配信するネット中継や、スカパー!のような衛星放送を有料で視聴するのが主流になりつつあるようです。
地上波による巨人戦の全国中継がなくなったことに象徴されるようにプロ野球中継の低視聴率が球界の課題となっていましたが、まだまだ番組コンテンツとしては魅力があるため地上波と有料放送が共存しながらも放映権収入は各球団の大きな収入源となっています。
グッズ販売収入
チケット収入、放映権収入に次いで球団経営に欠かせないのがグッズ販売収入です。特に選手のユニフォームやメガホンなどの応援グッズは多くの観客が購入する人気アイテムです。
これ以外にも帽子、Tシャツ、リストバンド、タオル、クッションなど応援時に使用するものから文房具、キーホルダー、衣類などの日用品までさまざまあります。こういったグッズはファンが身に着けることで応援に一体感も出ますし、日常から球団や選手にグッズとして接することで愛着もわきます。
グッズは販売による収入もさることながら、球団にとってはファンにより一層球団を身近に感じてもらうためにも重要なものといえます。また選手が背番号を変えたりチームユニフォームを変えることは、新しいユニフォームのグッズを購入してもらうという効果もあります。
これらのグッズは球場内やグッズ専門ショップ、球場近くのコンビニや地方の球団ならば主要駅のお土産売り場での取り扱いもあったり、今ではネットショップでの購入も可能で各球団とも販路を多く抱えグッズ販売にも力を入れています。
スポンサー収入
ユニフォームや帽子、ヘルメットに企業名を入れたり、主催ゲームに自社の社名や商品名を冠につける「〇〇(社名、商品名)ナイター」といったゲームスポンサー、企業がスポンサーとして協賛金を支払いシーズンを通して球団デザインやマークを使用できるといったオフィシャルスポンサーなどに代表されるのがスポンサー収入です。
スポンサーは球団にスポンサー料を支払うことで企業名を宣伝したり、球団を応援することでその球団のファンに愛着を持ってもらうなどの効果を期待します。観客や中継放送を通じて企業名が露出することでスポンサー企業の知名度も上がります。
ユニフォームやヘルメット広告はホームゲームのユニフォームに限り表示が可能となっているようですが、新聞、テレビ、雑誌やネットニュースにもスポーツニュースとして報道されるたびに企業名が露出することを考えればスポンサー企業にとっても宣伝効果は絶大でしょう。
このように単なるチケット収入のみならず、プロ野球チームが多くの野球ファンから注目され広告媒体としての価値があるからこそ成り立つビジネスモデルとも言えます。
これ以外にも球団の商標使用を許可することで得られるライセンス収入や選手の写真や名前の使用を許可することで得られる肖像権の収入などもありますが、球団にとって大きな収入の柱は上記の4つに大別できます。
球団の主な支出とは?
さてここまでは球団の収入について見てきましたが、支出についても見てみましょう。プロ野球団の支出は主に
- 監督、コーチ、選手の年俸
- 遠征費
- 球団スタッフの人件費、球団運営費
- 球場使用料
などがあります。このような支出とは一体どんなものなのでしょうか?
監督、コーチ、選手の年俸
何と言っても球団の最も大きな支出はこの監督、コーチ、選手の年俸となります。球団経営の全てを握っていると言っても過言ではありません。
なぜなら人気、実力のある選手を揃えてこそ、球団の全ての売り上げに直結するからです。チームが弱くてもだめですし、かといって人気選手がいなければファンも定着しません。
お金をかければすべて良いということではありませんが、例えばFAや外国人選手にお金をかけてチームを補強したり、人気選手を獲得することはチケット収入、グッズ収入にもつながります。
当然チームがリーグ優勝したり選手が育ってタイトルホルダーのような超一流選手になれば、年俸は上がっていきます。チームが強くなればファンもより多く球場に足を運びたくなるでしょうし、超一流選手を目当てに観戦するファンも増えていきます。
年俸だけがひたすら高騰し続けるのは球団経営を圧迫させるだけですが、いわば球団にとっては選手は商品でもあります。いかに良い商品を並べてお客さんを楽しませることができるか、さらにチームの人気が上がれば収入が増えるのでまた選手の補強にお金をかけられるといった好循環を生み出すことにつながります。
この年俸は球団の商品力、魅力度を上げるために欠かせない投資ともいえます。
関連記事:プロ野球総年俸推移と2020年の12球団ランキング!年俸総額はどれくらい増えた?
遠征費
これは球団経営するうえで必ずかかってしまう費用ですが、この金額も小さくはありません。セリーグならば東京から広島までの遠征費用と宿泊費、パリーグならば北海道から福岡までさらに広範囲を何度も移動することになります。
この遠征費用は全てビジター、すなわち移動する球団の負担となります。さらに宿泊ホテルの宿泊代、食事代も球団負担です。
この点、東京や横浜、埼玉、千葉といった関東圏にあるチームは、関東圏内の試合ならば選手が球場に直接集合することもできますので遠征費用は比較的少なく済みますが、北海道、仙台、広島、福岡といった地方の球団は遠征費は多くかかることになります。
また秋季、春季キャンプの費用も球団負担です。1か月近くホテルに宿泊し、選手に提供する食事代もかかります。支配下選手や監督、コーチ、スタッフ全ての費用ですので負担額も大きくなります。
この遠征費は必要経費ですので削ることはできませんが、球団の負担もそれなりにあるようです。プロ野球の二軍はイースタンリーグ、ウェスタンリーグと東西のエリアに分かれていますが、このような遠征費を抑えるという目的もあります。
関連記事:プロ野球、2軍戦観戦の楽しみ方。1軍戦よりも面白い4つの理由!
球団スタッフの人件費、球団運営費
球団経営をするとなれば、球団の営業や事務、選手が遠征する際のホテルや新幹線などの手配をする球団の従業員、スタッフの人件費もかかります。球団を運営するためには選手、コーチだけではなく、練習を手伝う裏方の人たちやチケットを売ったり企業と放映権やスポンサーの営業をするスタッフも必要です。
こういった球団事務職員の人件費も当然発生します。
さらに球団運営費の中でも営業費にはいろいろなものがあります。チケットを販売するための手数料、グッズの製作費、さらに球場で開催するイベントの費用、ファンクラブの運営費など球団の売り上げを上げるための営業費がかかります。
ただ黙って待っててもファンは増えません。さらにチームを強くしたくても補強したからと言ってすぐに勝てるようになるとは限りません。球団はチームが勝てなくてもファンが球場に来て楽しんでもらえるよういろんなファンサービスやイベントを企画してエンターテインメントを演出します。
最近はどこの球団も球場でのイベントに力をいれ、家族連れや若い人、女性にも球場に足を運んでもらえるよう企画してます。こういった活動の費用も今や球団には欠かせない支出となっています。
球場使用料
実はこの球場使用料は球団によって発生する場合と発生しない場合があります。さらに球場によっても金額が変わってきます。球場自体は球団と別会社、別法人のケースも多く、この場合は球場に使用料を支払うことになります。
このため球場が自前のもので球場使用料が発生しないのはソフトバンクの本拠地福岡ドーム、横浜DeNAの横浜スタジアムが該当します。
球場が基本的に自前であるということは購入や修繕の費用が発生するため、球場使用料の代わりに球場の購入費用や建設費用を数十年かけて費用化する償却費が発生します。自前で持つということは巨額な資金が必要となりますが、球場の飲食や看板広告料の売り上げが球団に入ることになります。
さらに球団と球場が一体となって運営することで自由に座席や設備を改修したり、様々なイベントを自由に行うことでファンサービスを充実させやすいというメリットもあります。
次いで自前ではないが、親会社、グループ会社が所有しているのが、オリックスの本拠地大阪ドーム、ライオンズの本拠地西武ドーム、そしてタイガースの本拠地甲子園球場があります。
この場合、グループ内とはいえ別会社が所有しているので球場使用料は発生していると思われますが、その分球場での売り上げが球団の収入になります。グループの少輔なのでソフトバンクと同じように一体となって運営できるメリットもあります。
さらにこの形式に近いのが広島カープの本拠地広島球場、楽天の本拠地宮城球場、千葉ロッテの本拠地マリンスタジアムで、これは元々公営の球場の指定管理者として球場使用料を支払う一方で球場の運営管理を任せられる形式です。
使用料は元々安いうえに施設、座席の改修も自由に行え、球場での物販収入や看板広告料も売り上げにできるというメリットは全く同じです。球場を貸す側も管理コストをかけずに毎年使用料収入を得られるというメリットがあります。
逆に日ハムの本拠地札幌ドーム、巨人の本拠地東京ドーム、中日の本拠地ナゴヤドームのドーム球場やヤクルトの本拠地神宮球場は、別会社が所有しており球場使用料を支払っていますが、球場の売り上げは球団には入ってきません。
特にドーム球場は比較的新しく総工費用も多額なため球場使用料が高額になる傾向にあります。東京ドームやナゴヤドームは球団と球場の資本的な関りがあるので問題となりませんが、日ハムはこの高額な使用料がネックとなって札幌ドームから移転する計画が進んでいます。
これらドームを本拠地にしている球団にとっては球団の支出として選手人件費に次ぐくらいの費用負担があります。かといってドームを買収するには巨額な資金が必要となるため現実的ではないのでしょう。
このように球場が賃貸か持ち家かで球団の負担するコストや入ってくる収入に大きな差があるのは以外ではないでしょうか?
かつてと異なる球団の経営状況
さてここまで球団経営の仕組みについて見てきました。球団の収入、支出の内容には球団ごとの大きな差はありません。基本的にはチケットを販売するのが主たる収入であるのは全球団共通ですし、支出で最も大きなものは選手、監督、コーチの人件費です。
もちろん巨人のような人気球団であれば、チケットもたくさん売れるし放映権も高くなります。プロ野球が興行である以上、人気があればあるほど売り上げも大きく伸びます。この点で球団ごとに差があるのは仕方ないでしょう。
ただし利益という点で観れば、必ずしも売り上げが大きければ利益も大きく出るというものではありません。
ここまで見てきて球団ごとに大きく異なるのが「球場使用料」と「球場の物販収入」「球場の看板広告収入」の有無です。球場をほぼ自前で所有している球団は、球場使用料が不要か安く抑えられながら、球場から得られる収入もあるという点でメリットが大きいと言えます。
一方で自前であるということは球場の購入に莫大な費用がかかるというデメリットもあります。この点、指定管理制度を導入している楽天、広島、千葉ロッテには経済的なメリットは大きいように思えます。
かつては球団の赤字を親会社が補填するという構造が球団経営の常識で黒字球団は巨人、阪神くらいと言われていた時代とは大きく異なり、ほぼ全ての球団が黒字化あるいは赤字の縮小に成功しています。
昔は人気のセ、実力のパと言われていましたが、現在はパリーグもかなり人気がでてきました。巨人、阪神、中日といった老舗球団のあるセリーグに比べて、不人気と言われ何回も身売りを経験したパリーグはリーグ一体となって盛り上げようと努力してきました。
さらにセリーグでもいまいち人気のなかった広島カープはリーグ3連覇、カープ女子という流行語も生み出すほどの実力と人気を誇りますが、これも球団の努力が結実した結果でしょう。
巨人、阪神は相変わらず人気球団ですが、東京、大阪圏以外の地方に根差した球団の経営努力により満遍なく他球団のファンが増えてきているように感じます。
まとめ
ここまで球団経営の仕組みについて見てきました。球団の収入の大きな柱は
- チケット販売収入
- 放映権収入
- グッズ販売収入
- スポンサー収入
が挙げられます。一方で球団の支出の大きなものは
- 監督、コーチ、選手の年俸
- 遠征費
- 球団スタッフの人件費、球団運営費
- 球場使用料
がありました。この収支の中でも球団ごとに大きく異なるのが球場の所有形態による収支構造です。
球場の所有形態から
- 球場を自前で持つソフトバンク、DeNA
- 球場を親会社、グループ会社が持つ西武、オリックス、阪神
- 球場は公営ながら指定管理制度を利用している楽天、千葉ロッテ、広島
- 球場は別会社で使用料負担がある日ハム、巨人、ヤクルト、中日
に大別しました。球場を自前やグループで保有している場合は球場使用料ががかからないか安く抑えられると同時に、球場での物販収入、看板広告収入が球団に入るというメリットがあります。もちろん自前で持てば多額の購入費用が発生するというデメリットもあります。
その点指定管理制度は球場使用料を安く抑えれらながら、球場からの収入も得ることができます。一方で札幌ドーム、東京ドーム、ナゴヤドームはドームの総工費が大きいため球場使用料も高額になるうえ、球場での飲食や看板広告の売り上げは球団には入ってきません。
自前でない分、球場の建設コストの負担をしないで済むというメリットもありますが、使用料負担が大きいため日ハムのように移転を計画せざるを得ないケースも出てきました。
それでも球場との一体運営に乗り出しながら地域に根差した球団運営に努力した結果、各球団ともかつてのように親会社に損失補填をしてもらうような状況とは異なる経営状況になりつつあります。いまだプロ野球人気の低下がささやかれることもありますが、歴史のある日本プロ野球には今後も魅力あるものであってほしいですね。