2019年12月に元メジャーリーガーのイチローさんが、資格回復研修会を受講しました。この研修会とはプロ野球経験者が学生野球の指導者になるための研修で、プロ側の研修1日とアマ側の研修2日の計3日間、座学で行われました。
2月に行われる日本学生野球の審査に通ることで資格回復が認められ、プロ野球経験者が学生に野球指導することが可能となります。なぜこのような講習会が行われるのか?その背景にはプロアマ規定の存在があります。
プロアマ規定とは一体どんな内容のものなのか?どんな経緯でできてどんな行為が禁止なのか?について解説します。早速見ていきましょう!
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プロアマ規定とは?
よく耳にすることのある「プロアマ規定」という言葉は、基本的には高校と大学野球に関するルールを定めた日本学生野球憲章の一部分を指します。この憲章の中にある第12条と第13条がこのプロアマ規定にあたります。
この条文とは
第4章 |
第12条(学生野球資格) プロ野球選手、プロ野球関係者、元プロ野球選手および元プロ野球関係者は、学生野球資格を持たない。 2.本憲章に基づき除名処分を受けた者は、学生野球資格を失う。 3.学生野球資格を持たない者は、部員、クラブチームの構成員、指導者、審判員および学生野球団体の役員となることができない。 第13条(学生野球資格を持たない者との関係の基本原則) 学生野球団体および加盟校は、日本学生野球協会の承認を受けて、学生野球の発展を目的として、次にかかげる活動を通じ、学生野球資格を持たない者(本憲章により除名処分を受けて学生野球資格を失った者を除く。)と交流することができる。 ①練習、試合など ②講習会、シンポジウムなど ③その他学生野球の発展に資する活動 2.前項の交流は、次の原則を遵守しなければならない。 ①学生野球が商業的に利用されてはならないこと。 ②部員、親権者またはその代理人は、プロ野球団体への入団、雇用などの契約の締結に関する交渉その他の行為について、全日本大学野球連盟または日本高等学校野球連盟が定める規則に従うこと。 ③学生野球団体、加盟校、野球部、部員、指導者、審判員または学生野球団体の役員は、学生野球資格を持たない者から交流に必要な実費以外の金品の提供を受けてはならないこと。 ④学生野球団体、加盟校、野球部、部員、指導者、審判員または学生野球団体の役員は、学生野球資格を持たない者に対して交流に必要な実費以外の金品を提供してはならないこと。 第14条(学生野球資格の回復) 元プロ野球選手または元プロ野球関係者は、日本学生野球協会規則で定めるところに従い、日本学生野球協会の承認を得て、学生野球資格を回復することができる。 |
上記のように定められています。
上記12条によりプロ野球経験者は、部員や指導者になることができないと定められています。ただし13条にあるように「日本学生野球協会の承認を受けて」学生野球資格を持たない者と交流することができるとなっています。
これによって事前に承認を得ていればプロ野球選手が母校の練習に参加したり、挨拶、自己紹介やアドバイスなどはできるようになっています。ただし技術指導を伴うミーティングやノックなどの直接的な技術指導を行うことはできません。
そこで技術指導などの指導者としての資格を得るためには第14条に定めるように学生野球資格を回復することで可能となります。この学生野球資格を回復するための研修が冒頭でイチローさんが受講した研修会にあたります。
この研修会を受講したうえで日本学生野球協会の審査に通って晴れて資格回復となり技術指導ができるようになります。しかし「元」とあるように現役の選手は資格回復はできないので技術指導はできないままとなっています。
それではなぜこのようなプロアマ規定が存在するようになったのでしょうか?続いて見ていきましょう。
プロとアマの断絶のきっかけとなった柳川事件とは?
1961年(昭和36年)に起きた柳川事件の当時、日本野球機構(NPB)は社会人野球協会(現日本野球連盟)との間で協定を締結していました。
社会人野球日本選手権大会が終了する10月末までプロ野球側が社会人野球の選手をスカウトしないようにする協定で、プロ野球側も遵守していました。これはドラフト制度が導入される前の時代で社会人野球側が日本選手権の前に選手を引き抜かれないようにするためのものでした。
一方で、プロ野球退団者の受け皿ともなっていた社会人野球側はプロ野球退団者が無秩序に加入することを懸念し、社会人野球に加入するのはプロ退団後1年後、さらに1チーム3人までとすることを協定に盛り込もうとしました。
しかしプロ側は退団選手の身分保障のためにこの要求を拒絶しました。この結果協定そのものが破棄されてしまいます。すなわち無協定という状態のなか、1961年に中日ドラゴンズが以前なら協定で禁止されていた期間にあたる4月20日に日本生命の柳川福三外野手と契約、入団を発表してしまいました。
これを受けて社会人野球協会は緊急理事会を開催、プロ野球界との関係断絶とプロ野球退団者の社会人野球チーム入団を拒否しました。この時に高校野球や大学野球を傘下におく日本学生野球協会も社会人野球協会の決定に同調し、学生野球憲章でプロ野球関係者からの指導を禁じました。
この柳川事件をきっかけとしてプロアマ規定が制定され日本野球界で長きに渡るプロとアマの確執が始まることとなりました。
1973年にはドラフトで巨人から1位指名を受けた小林秀一投手がアマチュア野球の指導者に転身することを希望していたため、このプロアマ規定によりプロ野球選手になることがアマ指導者になる障害となることを避けるため巨人への入団を拒否しました。
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しかし1973年以降、プロとアマの関係は徐々に改善されていきます。段階的に大学、高校でも一定の条件をもとに大学、高校野球の指導を許可するようになっていきました。
社会人野球についても1999年に日本野球連盟に届け出ることと選手登録は1チーム2名までを条件に元プロ野球選手の社会人野球入りが認められるようになりました。
そして2013年にプロ側が行う研修とアマ側が行う研修と検査を受けることで高校、大学の指導者になる資格が回復できるようになりました。しかし先にも述べたように現役プロ野球選手との接触はまだ規制は強く、今後どのように融和されていくのかプロ側、アマチュア側にとっての課題でしょう。
まとめ
現役のプロ野球選手や元プロ野球関係者が高校生や大学生との接触を規制しているプロアマ規定となぜプロ野球経験者が学生を指導できないかについて紹介してきました。
- プロアマ規定とは日本学生野球憲章12条、13条のことを指す
- この規定では学生野球資格のないプロ野球経験者が学生と交流することは禁止されているが、日本学生野球協会の承認を受ければ一定の交流は可能
- プロ野球経験者などが学生に対して直接的な技術指導をすることは禁止されている
- この憲章14条においてプロ野球経験者が学生野球資格回復ができるように規定されており資格回復されれば技術指導も可能
- アマ側とプロ側が行う研修会(アマ2日、プロ1日)を受講し、日本学生野球協会の審査に通ることで学生野球資格回復となる
- 現役プロ野球選手については引き続き技術指導をすることは禁止、学生野球資格回復もできない
以上により一定の条件のもとでプロ野球経験者が学生野球を指導することが認められてきました。
このプロアマ規定のきっかけとなったのが1961年に起きた柳川事件です。
- プロ側と社会人側との間で、社会人野球大会が終了するまでの期間はプロ側が社会人野球選手を引き抜かないようにする協定があった
- 社会人側からのプロ野球退団者の受け入れを退団後1年、1チーム3人までとする要望をプロ側が拒絶したため協定が破棄された
- 協定が破棄されたことにより中日ドラゴンズが日本生命の柳川選手を上記期間内に引き抜いたためプロと社会人の関係が決裂(柳川事件)
- 社会人側に同調した日本学生野球協会も日本学生野球憲章でプロ側との接触を規定するプロアマ規定が制定された
このプロアマ規定は徐々に緩和され、上記のようにプロ野球経験者が学生を指導する道も開けてきました。現役プロ野球選手への規制はいまだありますが、プロ側、アマ側の今後の課題でもあります。
日本野球界の発展のためにもプロとアマの関係が完全に改善されることが望ましいでしょう。野球人気の低迷を防ぐためにも両者が協力して人気回復に努めてもらうことを望みます。