冒頭でも説明しましたが、社会人野球は大きく分けて企業チームとクラブチームを指します。そして社会人野球チームの大半は公益財団法人日本野球連盟に所属しています。また日本野球連盟の登録規約では、競技選手として報酬を受けていない選手によって構成されることが条件となります。
このように日本野球連盟に所属し、競技者として報酬をもらっていない選手で構成されるチームを社会人野球と定義することができます。
では社会人野球における企業チームとクラブチームのそれぞれの特徴と違いについて見ていきましょう!
企業チームの選手は一般的には企業の一社員として企業に属し、あくまでも会社員として企業から給料をもらっています。昔はノンプロと言われたこともありました。実際には野球競技者として練習や試合などの活動に多くの時間を費やしていますが、一会社員であることが前提としてあります。
ですので正社員であれば給料水準は所属する企業のほかの会社員と変わらないケースも多く、野球チームをもっている企業は名門企業が多いので安定した高水準の給料をもらっていると言えます。
もちろん選手として野球部を引退、退部した後もそのまま企業に残り、定年まで会社に勤めることとなります。こういった点ではプロ野球選手のように活躍次第で億単位の年俸をもらうということはありませんが、野球が出来なくなっても給料をもらい続けることができるのが最大の利点でしょう。
企業チームへの入団は、高校生、大学生の選手を対象に企業側から声をかけて推薦により入社、入部することが一般的です。高校や大学の野球部のようにセレクションは基本的に行っていません。
また契約社員として野球に専念する雇用形態もあります。この場合は年俸制を取られているケースが多く、野球の成績次第で年俸も上下しますし契約を打ち切られることもあるのでプロの世界に近いシビアさがあるといえるでしょう。
一会社員として野球部に所属するのが企業チームの特徴ですが、高校あるいは大学から企業チームに就職、入部しプロ野球選手になることを目標とする選手も多くいます。こういった企業チームからプロ野球へ入団する選手はプロの世界でも即戦力として期待され活躍する選手も多数います。
クラブチームと一口に言っても運営形態はさまざまです。一般的には日本野球連盟に所属するチームのうち会社登録されていないチームを指します。
企業チームと異なり有志が運営するクラブチームから給料、報酬をもらうわけではありません。所属する多くの選手は別に仕事をもっていて仕事のない週末や休日に練習、試合をするのが特徴です。
クラブチームの運営形態は、同好会からNPO法人による運営、元プロ野球選手や芸能人など有名人が立ち上げたもの、広域複合企業といった複数の企業が選手を雇用し同一のチームで活動するものなど多種多様あります。
こういったクラブチームの運営費用は企業やスポンサーから賄われるケースが多いのですが、練習場の確保、用具代、移動費用など運営費もかかるため財政的にも企業チームに比べて不利な状況にあります。
有名なチームとしては芸能人の萩本欽一さんが創設した茨城ゴールデンゴールズや元メジャーリーガーの野茂英雄選手が創設したNOMOベースボールクラブなどがあります。チームとしての著名度が高いことから良い選手も集まるため大会などでも好成績をおさめています。
こういったクラブチームからプロ野球へ入団する選手も増えてきましたが、企業チームに比べるとまだまだプロへの輩出実績は乏しいと言わざるをえません。
独立リーグとは、社会人野球とは異なりNPB(日本野球機構)から独立したプロ野球チームによるリーグを指します。すなわち独立リーグの選手は所属する球団から報酬をもらって野球に専念しています。
もちろん日本プロ野球とことなり、報酬は4-9月までの6か月で最低保証10万円から上限40万円の間となり平均15万円ほどといわれています。野球を職業としている点で社会人野球チームとは一線を画しています。報酬などの運営費用は、入場料や企業からのスポンサー料によって賄われています。
現在は四国アイランドリーグplus、ベースボールチャレンジリーグ、関西独立リーグ、日本女子プロ野球機構などが活動しています。
さて社会人チームには企業チームとクラブチームがあることはわかりましたが、どんな名門、強豪チームがあるのでしょうか?名門、強豪チームを語るうえで欠かせないのはどんな大会があって、どこのチームが好成績をおさめているのかを見る必要があります。
さらにプロ野球選手を何人輩出しているのか?どんな有名選手が所属していたのかによって名門、強豪が明確になります。
それでは社会人野球大会にはどんな大会があってどんなチームが好成績をおさめているのでしょうか?
社会人野球の大規模な全国大会には、「都市対抗野球大会」「社会人野球日本選手権大会」「全日本クラブ野球選手権大会」の3大会があります。特に「都市対抗野球大会」「社会人野球日本選手権大会」は社会人野球大会の2大大会と称されています。
それでは早速各大会別の歴代優勝チームについて見ていきましょう!
毎年7月に毎日新聞社と日本野球連盟が主催して開催される95回の歴史を誇る大会です。その名の通り各都市の予選を勝ち抜いた代表32チームが東京ドームで日本一をかけてトーナメント方式で戦いを繰り広げます。
2024年は三菱重工EASTがJR東日本東北を下し初優勝を果たしました。
歴代優勝回数の上位チームは以下の通りです。
優勝回数 | 都市 | 企業名 |
12回 | 横浜市 | ENEOS(旧日本石油、新日本石油ENEOS、JX-ENEOS) |
7回 | 川崎市 | 東芝 |
4回 | 大阪市 | 日本生命 |
大阪市 | 全鐘紡※ | |
3回 | 吉原市 | 大昭和製紙※ |
川崎市 | 三菱ふそう川崎(旧三菱自動車川崎) | |
浜松市 | ヤマハ(旧日本楽器) | |
狭山市 | Honda(旧本田技研、ホンダ) | |
東京都 | 熊谷組※ | |
2回 | 東京都 | NTT東日本(旧電電東京、NTT東京) |
豊田市 | トヨタ自動車 | |
川崎市 | 日本鋼管※ | |
横須賀市 | 日産自動車 | |
姫路市 | 日本製鉄広畑※(旧富士製鐵広畑、新日本製鐵広畑) |
以上、現在は廃止となったチーム(上表の※)もありますが、いずれも企業としても一流企業と言われるチームが上位に名を連ねます。
毎年11月にこちらも毎日新聞社と日本野球連盟が主催して開催される40回を超える大会です。開催球場は京セラドーム大阪になってますが、かつては阪神甲子園球場、大阪球場、グリーンスタジアム神戸で開催されこともありました。
各地区の予選を勝ち抜いた代表チームのほか都市対抗野球大会、全日本クラブ野球選手権大会、主要地区連盟主催大会の各優勝チームの32チームがトーナメント方式で日本一をかけて戦います。別の大会の優勝チームが出場することで年間王座決定戦として位置づけられています。
2023年第48回大会終了時点での歴代優勝回数の上位チームは以下の通りです。
優勝回数 | 都市 | 企業名 |
7回 | 和歌山市 | 住友金属※ |
6回 | 豊田市 | トヨタ自動車 |
3回 | 大阪市 | 日本生命、大阪ガス |
2回 | 横浜市 | ENEOS(旧日本石油、新日本石油ENEOS、ENEOS) |
太田市 | SUBARU(旧富士重工) | |
門真市 | パナソニック(旧松下電器) |
以上、現在は廃止となったチーム(上表の※)もありますが、都市対抗野球でも上位に名を連ねる日本生命やJX-ENEOSもありますが、トヨタ自動車は都市対抗野球大会では1回のみの優勝ですが、日本選手権では6回の優勝、現存する企業では最多の回数を誇ります。
毎年8月から9月頃にかけてこちらも毎日新聞社と日本野球連盟が主催して開催される40回を超える大会です。開催球場はメットライフドーム(西武ドーム)で開催されていますが、かつては球場が大田スタジアム、静岡草薙球場、周南市野球場といった地方球場で開催されることもありました。
各地区の予選を勝ち抜いた16チームでトーナメント方式で日本一をかけて戦います。2024年第48回大会終了時点での優勝回数は以下の通りです。
優勝回数 | 都市 | チーム名 |
11回 | 足利市 | 全足利クラブ |
6回 | 有田市 | マツゲン箕島(旧和歌山箕島球友会) |
5回 | 大和高田市 | 大和高田クラブ |
3回 | 浦和市 | 全浦和野球団 |
稲敷市 | 茨城ゴールデンゴールズ |
以上、茨城ゴールデンゴールズは有名ですが、それ以外のチームはあまりなじみのない感はあります。マツゲン箕島は高校野球のかつての名門箕島高校のOBを中心に発足されたチームですが、箕島高校OB以外の出身者も参加しています。
高校や大学からプロ野球に入団せず、社会人野球を経験してプロ野球で活躍した選手も多数います。各チームからはプロ野球選手は何人輩出しているのか?その中でもプロ野球の名球会に入会している選手はどれくらいいるでしょうか?見ていきましょう!
社会人野球の強豪チームともなればプロ野球にも多くの選手を輩出しています。以下に輩出選手の多い企業チームの順から主な選手をまとめました。
チーム名 | 人数 | 主な選手 |
ENEOS | 46名 | 藤田元司、平松政次、田澤純一など |
日本通運 | 45名 | 辻発彦、大塚晶文、牧田和久など |
Honda | 38名 | 伊東昭光、広瀬哲朗、長野久義など |
東芝 | 38名 | 高代延博、坪井智哉、高橋尚成など |
パナソニック | 33名 | 加藤秀司、福本豊、潮崎哲也など |
日産自動車 | 32名 | 池田親興、川尻哲郎、野上亮磨など |
プリンスホテル | 31名 | 石毛宏典、石井浩郎、宮本慎也など |
JR東日本 | 31名 | 赤星憲広、小山良男、十亀剣など |
トヨタ自動車 | 31名 | 古田敦也、金子千尋、吉見一起など |
日本生命 | 30名 | 仁志敏久、福留孝介、大島洋平など |
ヤマハ | 30名 | 池谷公二郎、西村龍次など |
河合楽器 | 30名 | 一枝修平、武上四郎、小川淳二など |
出身選手もそうそうたる顔ぶれが並びますが、藤田元司氏、辻発彦氏、古田敦也氏などプロ野球の監督経験者も数多く連ねます。社会人出身の選手は社会経験もあるので監督になる選手も多いのではないでしょうか?
プロ野球選手の出身者数から見ても多くの選手を輩出しているチームこそ強豪と言えそうです。
名球会の資格は、日米通算で打者は2000本安打、投手は200勝以上もしくは250セーブ以上となります。大学から社会人へ進んだ選手は自ずとプロ野球に入団する時点で20代半ばとなりますので、選手寿命からするとかなりハードルが高くなります。
名球会には投手出身16名、打者49名と65名が入会していますが、入会のハードルが高い名球会の資格を得た選手のうち社会人野球出身者はどれくらいいるのでしょうか?以下にまとめました。
選手名 | 所属企業(当時の社名) |
岩瀬仁紀※ | NTT東海 |
野茂英雄 | 新日鉄堺 |
平松政次 | 日本石油 |
山田久志 | 富士鉄釜石 |
加藤秀司 | 松下電器 |
小笠原道大 | NTT関東 |
門田博光 | クラレ岡山 |
福留孝介 | 日本生命 |
福本豊 | 松下電器 |
古田敦也※ | トヨタ自動車 |
宮本慎也※ | プリンスホテル |
若松勉 | 電電北海道 |
和田一浩※ | 神戸製鋼 |
大島洋平※ | 日本生命 |
以上の13名が社会人野球出身者ですが、大学経由(上表の※)の達成者は5人しかいません。同一の社会人チームから複数名輩出したチームは松下電器(現パナソニック)しかありませんが、社会人野球の2大大会でも優勝回数で上位にランキングされるチーム出身者も多く名門企業チームが軒並み名前を連ねます。
名球会入りした選手を輩出していることも強豪チームの条件ということが言えそうです。
社会人野球チームには、大きく分けて企業チームとクラブチームの2種類あります。これらの特徴や違いは
財政面や将来の収入という点では企業チームの方が安定しているので一般的にクラブチームよりは人気があると言えます。
さらにこれらの企業チーム、クラブチームのうち名門、強豪と言われるのは、
の2点を満たしているチームが当てはまると思います。
クラブチームは、企業チームに比べてなかなか社会人野球大会でも実績があげられませんが、プロ野球選手を輩出しているチームもあります。強豪といわれるチームの名前を挙げるのは難しいですが、プロ野球選手を輩出するようになれば知名度もあがるでしょう。
夏と秋に開催される2大大会は、応援合戦も見ものです。東京と大阪で開催されていますので是非足を運んでみたいものですね。